断熱材の効果が半減!?「気流止め」の重要性と対策を解説! 公開日:2025年4月22日/更新日:2025年4月25日 執筆者 Yanagisawa Naoki 気密測定技能者・しろあり防除士・WEB解析士 2007年に日本でセルロースファイバー断熱工事のパイオニアであった、有限会社信濃ビケン(長野市)に入社。セルロースファイバーの施工職人として従事。2012年に株式会社テオリアランバーテックに統合され、入社から10年以上で約2000棟以上のセルロースファイバー断熱工事や気密測定技能者の経験を経て、現在は断熱・気密に関する正しい情報を発信するため活動している。 目次 Toggle 1. 信州の家が「とにかく寒い!」本当の理由は壁の中にあった1‑1. 壁体内対流を数値で理解する1‑2. 気流止めは「静止空気」を仕込む技術2. 気流止め・断熱工事・気密施工──似て非なる三つの役割3. 壁体内対流を放置するとどうなるか──五つの深刻な負の連鎖4. 気流止めの四大工法と判断基準4‑1. 袋入り断熱材のU字折り込み4‑2. 気密テープによる点封止4‑3. 乾燥木材+発泡ウレタン併用4‑4. 先張り気密シート5. 気流止め前に行う「現状診断」と「効果測定」のすすめ5‑1. 着工前診断で行う四つのチェック5‑2. 施工後に行う効果測定6. 公的データとシミュレーションで分かる気流止めの効果7. よくある質問(FAQ)8. 施工前セルフチェック7項目9. 補助金・減税を賢く使う四ステップ10. 施工後に後悔しないメンテナンス計画11. まとめ──「静止空気」は最高の断熱材 1. 信州の家が「とにかく寒い!」本当の理由は壁の中にあった 長野県は快晴の日が多く、一見すると冬も日差しで暖かそうに見えます。しかし夜になると放射冷却が一気に進み、長野市の2021年~2024年 1 月平均最低気温は ‑4.5℃、標高 900 m を超える軽井沢町では ‑8.2 ℃ まで下がります。しかも日中と夜間の寒暖差は 25 ℃超 になることも珍しくありません。 こうした環境下では、築 20〜30 年の木造戸建てが当時の省エネ基準(断熱等級 2 相当)で建てられていても、 断熱材が薄い 施工時に細かな隙間が所どころに残っている 経年で断熱材が落下・沈下・欠損している という三重苦に陥りがちです。 落下しかけている断熱材(撮影:株式会社テオリアランバーテック) 壁の中では暖められた空気が上昇し、外壁側で冷却されると下降します。この 壁体内対流 が続くかぎり、断熱材は“冷却フィン”のように熱を奪われ、暖房を強めても足元がスースー冷える現象が起こります。 1‑1. 壁体内対流を数値で理解する 外気 0 ℃・室温 20 ℃ の試験条件で、グラスウール 16K 100 mm に 3 mm の隙間を設けると熱貫流率(U 値)が 最大 32 % 悪化した。これは(一社)住宅性能評価・表示協会が 2023 年に公表した実験結果です。断熱材が分厚くても内部で空気が動けば性能は激減します。 1‑2. 気流止めは「静止空気」を仕込む技術 壁体内の対流経路を物理的に遮断し、断熱材を 静止空気 で満たす工事を総称して気流止めと呼びます。隙間が数ミリでも効果は大きく、 壁面温度が 2〜3 ℃上昇 室温の上下ブレが小さくなる 暖房設定温度▲1 ℃(エネルギー約 10 %削減) などの効果が実測でも確認できます。小さな投資で大きく効く処方箋です。 2. 気流止め・断熱工事・気密施工──似て非なる三つの役割 工種 主目的 施工範囲 効果指標 施主メリット 断熱工事 熱を通しにくい層を厚くする 外皮全面 R 値/U 値 冷暖房負荷削減・表面結露抑制 気流止め 壁体内対流を遮断 壁・床・天井内部 壁面温度・運転時間 足元冷え解消・断熱材性能維持 気密施工 外皮を空気バリアで包む 建物全周 C 値 すきま風ゼロ・計画換気安定 注意: 気流止めは壁内対流を止める工事であり、家全体の C 値を直接達成するものではありません。C 値を確実に下げたい場合は別途気密施工が必要です。 3. 壁体内対流を放置するとどうなるか──五つの深刻な負の連鎖 断熱性能が最大 30 %低下(出典:一般社団法人日本建材・住宅設備産業協会) 一般社団法人住宅性能評価・表示協会が2023年に公表した試験結果では、グラスウール16K・厚さ100 mmの試験体にあえて3 mmの隙間を設け、熱貫流率(U値)を測定しました。その結果、隙間がある場合にはU値が最大で32 %悪化し、断熱性能が約30 %低下することが確認されています。 結露・黒カビ・腐朽菌の蔓延 壁体内に冷たい空気が溜まると、断熱層の裏側で水蒸気が冷やされて水滴(結露)になります。この結露水を栄養源にして、まずは黒カビが発生し、そのあと湿った木材を栄養に腐朽菌(木材を分解する菌)が繁殖します。こうした菌類が広がると、健康被害や構造材の強度低下を引き起こし、住宅の寿命を大きく縮めてしまいます。 光熱費が毎シーズン 1〜2 割増(※出典:一般社団法人HEAT20) 一般社団法人HEAT20の報告によると、旧省エネ基準の住宅に比べ、G1等級の住宅では1・2地域で年間暖房負荷を約20%低減できます。逆に言えば、同等の断熱・気流止め対策を施していない住宅では、暖房負荷(ひいては光熱費)が約1~2割増加することになります。 アレルギー・喘息など健康リスク上昇 壁内結露でカビやダニが増えると、胞子やフンが空気中に舞い、呼吸すると気管に炎症を起こします。その結果、くしゃみ・鼻水・目のかゆみなどのアレルギー症状や、気管が狭くなる喘息発作のリスクが高まります。 構造材の寿命短縮で資産価値急落 壁内に結露が続くと、構造材の含水率が上がって腐朽菌やシロアリの被害が進み、柱や梁の強度が低下します。その結果、住宅の耐用年数が短くなり、修繕コストも跳ね上がるため、市場での中古価格や資産価値が大きく下がってしまいます。 4. 気流止めの四大工法と判断基準 4‑1. 袋入り断熱材のU字折り込み 低コストで床下や梁周りに最適。防湿フィルムを室内側へ向け、折り返し長さを均一に。 4‑2. 気密テープによる点封止 筋交い交差部・配線貫通部など局所の隙間をアルミ基材テープで十字貼り。DIY 向き。 4‑3. 乾燥木材+発泡ウレタン併用 妻壁・根太間など大開口を面で塞ぎ、ウレタンで止気・止水。耐震補強と同時施工でコスパ大。 4‑4. 先張り気密シート スケルトンリフォーム時に採用する最上位手法。シート重ね 100 mm、専用テープでジョイントし C 値 0.3 ㎠/㎡ クラスも狙えます。 5. 気流止め前に行う「現状診断」と「効果測定」のすすめ 5‑1. 着工前診断で行う四つのチェック 赤外線サーモ撮影で温度ムラを可視化 煙試験で漏気経路を発見 壁内ファイバースコープで断熱材沈下を確認 温湿度ロガーで露点越え時間を測定 5‑2. 施工後に行う効果測定 再サーモ撮影で温度ムラが解消したか比較 暖房運転時間ログの取得 電力・灯油使用量を前年同月と比較 室内 CO₂ 濃度と換気量で気密バランスを確認 6. 公的データとシミュレーションで分かる気流止めの効果 出典 試験・モデル 気流止め前 気流止め後 改善幅 住宅性能評価・表示協会 (2023) 16K100 mm 壁体試験 U = 0.57 W/㎡K U = 0.39 W/㎡K ‑31.6 % 国総研モデル住宅 (寒冷地) 年間暖房負荷 9,850 MJ 7,950 MJ ‑19.3 % HEAT20 G1 モデル 壁面平均温度 14.2 ℃ 17.3 ℃ +3.1 ℃ 北方住宅振興協議会 冬季結露発生時間 112 h 48 h ‑57 % 7. よくある質問(FAQ) Q1. 気流止めだけで家全体の気密は確保できますか? いいえ。C 値を確実に下げるには外皮全体を包む気密施工が必要です。 Q2. DIY で必要な道具は? タッカー、アルミ基材テープ、1液発泡ウレタン、赤外線温度計、防護具。冬季はプライマーも。 Q3. 点検サイクルは? 気密テープの耐久性を考慮し、5 年ごとに床下・小屋裏をサーモで確認すると安心です。 Q4. 換気システムとの相性は? 気流止め単体では影響しませんが、同時に気密施工を行い C 値 1.0 ㎠/㎡以下を確保すれば第 1 種・第 3 種どちらも設計通りに動きます。 8. 施工前セルフチェック7項目 冬に壁や床へ手を当てると冷気を感じる クロスの継ぎ目に黒ずみや剝がれがある 押入れがかび臭い、布団が湿る 小屋裏合板に白い結晶が付く 床下点検口から冷気が漂う 冬の光熱費が月 3 万円超 給気口から結露水が垂れる 3 項目以上当てはまれば壁体内対流の可能性が高いと言えます。 9. 補助金・減税を賢く使う四ステップ 断熱工事とセットで気流止め施工を行う場合、国や県の補助金が受けられる可能性があります。 断熱工事会社やリフォーム工事会社に事前相談(着工 3 か月前) 補助金情報+見積書を取得 交付申請→決定後に着工 完了報告で 1〜2 か月後に入金 長野県の信州健康ゼロエネ住宅助成金はリフォーム工事に対して総工事費の20%または上限 50 万円の補助金が狙えます。 補助金について詳しく知りたい方は「【大型補助金ラストイヤー】2025年断熱リフォームで活用できる補助金を完全解説!最大260万円支給も!」をご覧ください。 10. 施工後に後悔しないメンテナンス計画 完成後でも主な気密テープ施工箇所は点検口や視覚的診断で確認・補修が可能です。以下のサイクルでメンテナンスを行い、気流止め効果を長期維持しましょう。 5年目:床下・小屋裏の点検 床下点検口から土台まわりのテープ剥がれを目視・触診 小屋裏点検口から天井取り合いのテープ浮きをチェック 異常があれば同種テープで浮き回収・貼り増し 10年目:配線・配管貫通部の点検 コンセント/スイッチボックスを外して内部のテープ密着状態を確認 換気ダクト・給排水管貫通部も点検口から漏気跡を探し補修 必要に応じてシーリング材併用で気密ラインを再構築 15年目:気密テープの全面更新 耐候性の限界に達するので、床・壁・天井の主要6箇所(基礎天端・根太間・天井取り合い・筋交い交差部・配管貫通部・窓台/窓頭)を順次全面貼り替え 更新時に赤外線サーモチェックを併用すると、隠れた気密不良も補修可能 これらを定期的に行うことで、壁体内対流の再発や結露リスクを抑え、施工時の気流止め・気密効果を30年以上持続させることができます。 11. まとめ──「静止空気」は最高の断熱材 壁の中を動く空気を止め、断熱材が本来持つ力を100 %引き出す――それが気流止めです。 壁面温度+2〜6 ℃で体感温度大幅アップ 暖房エネルギー10〜20 %削減 カビ・結露・構造劣化リスクを同時抑制 「家全体を壊す大工事は避けたい」 「でも次の冬こそ快適に過ごしたい」 そんな信州のご家庭にとって、気流止めは実践的かつ費用対効果の高いソリューションです。 まずは 気流サーモ診断 で、あなたの家の“見えない冷気”を可視化してみませんか? 気流サーモ診断では、FLIRのサーモカメラを使い、室内外から温度差や特に寒暖差がある場所の特定、を可視化しながら確認します。(温度差が無い状態では正確に確認することは難しい旨ご了承ください。) 気流サーモ診断のお申し込みはフォームまたはお電話(0120-552-643)にてお気軽にご連絡ください。