【日本一詳しく解説】新聞紙から作られるセルロースファイバー断熱材とは? 公開日:2025年10月3日/更新日:2025年10月6日 執筆者 Yanagisawa Naoki 気密測定技能者・しろあり防除士・WEB解析士 2007年に日本でセルロースファイバー断熱工事のパイオニアであった、有限会社信濃ビケン(長野市)に入社。セルロースファイバーの施工職人として従事。2012年に株式会社テオリアランバーテックに統合され、入社から20年弱で約2000棟以上のセルロースファイバー断熱工事や気密測定技能者の経験を経て、現在は断熱・気密に関する正しい情報を発信するため活動している。 目次 Toggle セルロースファイバーとは?紙から生まれた自然由来の断熱材断熱材の中での位置づけセルロースファイバーの7つの性能1. 断熱性(Thermal Insulation)2. 調湿性(Moisture Control)3. 耐火性(Fire Resistance)4. 吸音性(Sound Absorption)5. 撥水性(Water Repellency)6. 防カビ性(Mold Resistance)7. 防虫性(Insect Resistance)歴史から見るセルロースファイバーアメリカでの誕生(1930年代)オイルショックで再注目(1970年代)ヨーロッパでの本格普及(1980〜1990年代)日本での導入と発展(1980年代〜)日本での普及要因の変遷環境への配慮|なぜ“エコ断熱材”なのか1. 古紙リサイクルで資源循環2. 省エネによるCO₂削減3. 健康配慮:室内空気質の観点健康寿命を延ばす住まいづくり ─ 断熱と調湿で“温度差リスク”と空気の悩みを同時に軽減施工方法と品質のポイント吹き込み工法の基本施工方法の種類品質を守るために大切なこと他断熱材との比較(メリット/デメリット)他断熱材との比較ポイント(一部抜粋)活用事例(新築/リフォーム/公共)新築住宅での活用リフォーム・リノベーションでの活用公共施設・教育施設での活用この断熱材が向いている人・住宅日本でセルロースファイバーを製造・供給している主な企業一覧なぜ今セルロースファイバーが選ばれているのか1. 多機能で暮らしを守る性能2. 環境性|資源循環と省エネに貢献3. 海外の実績と日本での成熟4. 住宅政策・社会的潮流との合致 セルロースファイバーとは? 紙から生まれた自然由来の断熱材 セルロースファイバーは、新聞紙や段ボールなどの古紙を再利用して作られる繊維状の断熱材です。「セルロース」は木材や紙の主成分である植物繊維の名称。つまり、木を原材料とした紙を粉砕・繊維化し、住宅の壁・天井・床下へ隙間なく吹き込むことで断熱層を形成します。 断熱材の中での位置づけ ひと言で断熱材と言っても大きく4つのカテゴリーに分類できます。その中でセルロースファイバーはどこに分類されるのでしょうか? カテゴリー 原 料 代表的な断熱材 特 徴 繊維系断熱材 グラスウール ロックウール ガラス(リサイクルガラス、石英砂) 鉱物(玄武岩・高炉スラグ) 繊維の隙間に空気を閉じ込めて断熱。安価で普及率が高いが、湿気や施工精度により性能低下のリスクがある。 発泡プラスチック系断熱材 EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム)、 XPS(押出法ポリスチレンフォーム)、 硬質ウレタンフォーム、フェノールフォーム 石油化学由来の樹脂(ポリスチレン、ポリウレタン、フェノール樹脂など) 発泡させた板状やスプレータイプ。高断熱・軽量だが、環境負荷や耐火性に課題。 自然素材系断熱材 セルロースファイバー ウッドファイバー 羊毛 古紙(セルロースファイバー) 木材チップ・繊維(ウッドファイバー) 羊毛 自然由来で環境負荷が低い。調湿性や健康面のメリット大。ただしコストや供給体制に課題がある。 特殊系断熱材 真空断熱材(VIP) エアロゲル断熱材 真空パネル(ガラス繊維芯材+多層フィルム) シリカ系ナノ多孔質(エアロゲル) 最高水準の断熱性能。省スペースでも有効。ただし高価で施工条件も限定的。冷蔵庫・特殊建築などで利用が多い。 数ある断熱材の中でもセルロースファイバーは、単に「熱を遮る」だけでなく、湿気を吸ったり放出したりする調湿性、音を吸収する吸音性、火や虫への強さなど、多機能を備えているのが大きな特徴です。環境へのやさしさと住み心地の良さを両立できる断熱材として、近年改めて注目されています。 それではセルロースファイバーの特徴について見ていきましょう。 セルロースファイバーの7つの性能 1. 断熱性(Thermal Insulation) セルロースファイバーの熱伝導率は約0.040W/m・Kで、グラスウールやロックウールと同等の水準です。つまり、カタログ上の「断熱性能の数値」だけで見れば、他の一般的な断熱材と大差はありません。 しかし、セルロースファイバーが注目されるのは「数字以上の実力」にあります。吹き込み充填によって隙間ができにくく、施工精度の影響を受けにくいため、実際の住宅での性能が安定しやすいのです。さらに繊維の中に空気をたっぷり抱え込むことで、冬は室内の暖かさを逃がさず、夏は外からの熱を遮り、快適な環境を保ちます。 加えて、セルロースファイバーは蓄熱性能が大きい点も特長です。熱をため込み、時間をかけてゆっくり放出する性質を持つため、外気温の変化が室内に伝わりにくくなります。夏の昼間に外の熱気を吸収し、夜になってから放出するため、日中の暑さをやわらげて夜の寝苦しさを抑える効果が期待できます。これは「数値としての断熱性能」には表れにくい、体感温度や暮らしの快適さに直結するポイントです。 【用語解説】 熱伝導率(ねつでんどうりつ):熱の伝わりやすさを表す指標。数値が小さいほど断熱性能が高い。 蓄熱性能(ちくねつせいのう):建材や断熱材がどれだけ熱をため込み、ゆっくりと放出できるかを表す性質のことです。 2. 調湿性(Moisture Control) セルロース繊維は湿気を吸収・放出する性質を持っています。湿度が高いときは余分な水分を吸い、乾燥時には放出。この「呼吸する断熱材」の働きによって、 結露やカビの発生を防ぐ 夏のジメジメ感をやわらげる 冬の乾燥を緩和する といった効果が期待できます。 3. 耐火性(Fire Resistance) ▲表面が炭化するだけで中まで燃えません▲ 「紙の断熱材は燃えやすいのでは?」と心配されがちですが、セルロースファイバーは燃え広がりにくい素材です。ホウ素系薬品(ホウ酸塩)による難燃処理が施されており、火が当たっても表面が炭化層を形成して延焼を防ぎます。耐火試験でも外壁防火構造認定を取得しています。(外壁材・構造用面材・下地材・断熱材・内装材の仕様によって認定内容は異なります) 4. 吸音性(Sound Absorption) 繊維自体の空気胞により、入射した音エネルギーを熱エネルギーに置換する作用があります。それに加えて、繊維同士が絡み合うことにより厚い空気の層を保持しています。この二重の空気層がダブル効果で音を吸収します。 外からの騒音(車の走行音や人の声)を軽減 室内の音(テレビや足音)が外に漏れにくいなど、快適な住環境に貢献します。 5. 撥水性(Water Repellency) セルロースファイバーはホウ素系薬品で処理されているため、一定の撥水性を持ちます。そのため雨漏りがあった場合でも、断熱材がすぐに水を大量に吸い込むのではなく、早い段階で水が表面に現れるため、雨漏りの早期発見につながりやすいといわれています。ただし、長期間放置すれば建材にダメージが及ぶ可能性があるため、雨漏りが見つかった際は速やかな修繕が必要です。 6. 防カビ性(Mold Resistance) セルロースファイバーは、ホウ素系薬品の効果と優れた調湿性能の両方によって、防カビ性を発揮します。湿気をコントロールし、カビが好む環境を作りにくいため、室内環境を清潔に保ちます。 7. 防虫性(Insect Resistance) セルロースファイバーには、ホウ素系薬品(ホウ酸塩)が添加されており、これが防虫効果を発揮します。シロアリ・ゴキブリ・ダニなどの害虫を寄せ付けにくく、住宅を長期間守ります。ホウ酸は人やペットには低毒性で、目薬や洗眼液などにも利用される成分のため、安全性も高いとされています。 歴史から見るセルロースファイバー アメリカでの誕生(1930年代) セルロースファイバーが生まれたのは、1930年代のアメリカです。世界恐慌の影響で経済は冷え込み、住宅建設の分野でも「できるだけ安価で、かつ住みやすい家をつくる方法」が模索されていました。 当時、大量に流通していたのが新聞紙です。毎日膨大な量が発行され、すぐに不要となる新聞紙を廃棄せず資源として使えないかという発想が芽生えました。その答えのひとつが「断熱材への転用」でした。 新聞紙を細かく粉砕し、繊維状にしたものを住宅の壁に吹き込む、これがセルロースファイバーの原型です。紙は木材からできているため、繊維自体が熱を伝えにくい性質を持ちます。繊維の間に空気を抱え込むことで、簡易的ながらも断熱効果を発揮しました。 ただし、当時はまだ防火処理や施工技術が未熟で、「燃えやすいのではないか」「施工ごとに性能差が出る」といった不安が拭えませんでした。結果として、1930年代のセルロースファイバーは「実験的に使われたものの、大規模普及には至らなかった断熱材」として歴史に名を残します。 オイルショックで再注目(1970年代) セルロースファイバーが再び脚光を浴びたのは、1973年の第一次オイルショックです。原油価格が急騰し、世界中でエネルギー危機が深刻化。アメリカでも「いかに石油への依存を減らすか」が国家的な課題となりました。 ここで「住宅の断熱性能を高めて冷暖房エネルギーを減らす」ことが重要視され、再びセルロースファイバーが注目されます。その背景には、いくつかの技術的進歩がありました。 難燃処理の確立:ホウ素系薬品(ホウ酸塩)による難燃処理が広がり、紙でできた断熱材でも燃え広がりにくいことが証明された。 吹込み機械の改良:セルロースファイバーを均一に施工するブローイングマシンが普及し、品質のバラつきを抑えられるようになる。 環境意識の高まり:廃棄物削減やリサイクル活用の流れが社会的に広がり、古紙を再利用するセルロースファイバーは時代のニーズに合致した。 この時期から、北米の住宅市場ではセルロースファイバーが「グラスウールに代わる断熱材」として本格的に広がっていきます。特に寒冷地では「調湿性や防音性に優れる」点が高く評価され、採用が進みました。 この頃から、アメリカではセルロースファイバーを専業とする企業が数多く誕生します。 <代表的な米国の企業> Greenfiber(グリーンファイバー):現在アメリカ最大規模のセルロースファイバー断熱材メーカー。家庭向けDIY製品としてホームセンターでも販売。 Applegate Insulation(アップルゲート):老舗の断熱材メーカーで、セルロースファイバーを主力商品とし、住宅・商業施設に供給。日本でも展開している。 Nu-Wool Company(ニュールール):1897年創業の歴史あるメーカー。米国北部を中心に供給ネットワークを展開。 これらの企業は難燃処理や専用ブローイングマシンを開発・普及させ、セルロースファイバーをアメリカ住宅市場に根づかせました。 ヨーロッパでの本格普及(1980〜1990年代) ヨーロッパにおけるセルロースファイバーの普及は、アメリカ以上に力強いものでした。背景にあるのは、厳しい省エネ基準と気候条件です。 ドイツや北欧諸国は寒冷地が多く、冬の暖房にかかるエネルギーは膨大です。1970年代のオイルショックを機に、省エネを国策レベルで推進する動きが強まり、住宅の断熱性能が徹底的に問われるようになりました。 1980年代以降、セルロースファイバーは「環境にやさしい断熱材」として広く採用され、1990年代にはパッシブハウス運動の流れとともに普及が加速します。パッシブハウスとは、暖房や冷房などの設備に頼らず、建物の断熱・気密性能を最大限に高めて自然エネルギーを活用する住宅のことです。 この理念にもっとも合致する断熱材のひとつが、リサイクル資源から作られるセルロースファイバーでした。結果として、ヨーロッパでは「自然素材・環境配慮の家=セルロースファイバー」というイメージが定着していきました。 <代表的な欧州の企業> ISOCELL(アイソセル/オーストリア):ヨーロッパを代表するセルロースファイバー断熱材メーカー。吹込み工法を標準化し、施工品質の安定化に大きく貢献。 Climatizer Plus(カナダ発→欧州展開):欧州でも採用されるブランドで、環境性能を強調。 Ekopanely / Thermofloc(チェコ/オーストリア):木質繊維やセルロースファイバーを組み合わせた断熱建材を展開。 Cafco Cellulose(ドイツ):ドイツのエコ建材市場で存在感を放つ。 ヨーロッパでは、住宅だけでなく学校や公共施設にも積極的に採用され、「自然素材の家づくり」や「環境認証建築(LEED、Passive House)」で標準的な選択肢のひとつとなっています。 日本での導入と発展(1980年代〜) 導入期(1980年代) 日本にセルロースファイバーが紹介されたのは1980年代。当時は断熱といえばグラスウールがほぼ独占状態であり、セルロースファイバーは「珍しい新素材」として扱われました。製紙会社や建材メーカーが古紙リサイクルの一環として国産化を試み、「紙から断熱材をつくる」という新しい発想を住宅市場に提案しました。 認知拡大期(1990年代) 1990年代に入ると、省エネ基準の強化や自然素材住宅のブームを背景に、セルロースファイバーが徐々に注目されます。阪神淡路大震災後には住宅の品質基準が見直され、耐震と並んで断熱・気密の重要性が意識されるようになりました。この流れの中で「自然素材を使いたい」「環境に配慮した家を建てたい」という施主層が拡大し、セルロースファイバーが少しずつ支持を得はじめます。 品質確立期(2000年代) 2000年代に入ると、セルロースファイバーの施工技術は大きく進歩しました。アメリカで普及していたブローイング工法が日本向けに改良され、施工密度の基準や品質を保証する仕組みが整備されます。これにより、「セルロースファイバーは職人の腕で仕上がりが変わるのでは?」という不安が軽減され、工務店やハウスメーカーも安心して採用できる環境が整いました。 ただし、セルロースファイバーは袋詰めの製品をそのまま貼り付ける断熱材とは異なり、現場で繊維を吹き込む施工法の断熱材です。そのため、どんなに製品自体の性能や品質が安定していても、最終的な仕上がりは施工者の経験や技術に左右される側面が残ります。吹き込み密度が不足すれば断熱性能は低下し、逆に詰め込みすぎれば壁の変形や沈下を招く恐れもあります。 この課題に対応するため、一部のメーカーは施工研修や認定制度を導入し、「施工品質をシステムとして担保する仕組み」を築き上げました。つまり、2000年代は「製品性能の安定」と「施工品質の標準化」が進んだ時代であり、セルロースファイバーが本格的に普及するための基盤が整った重要な時期といえます。 普及拡大期(2010年代〜現在) 2010年代以降、国の住宅政策がセルロースファイバーの追い風となりました。 ZEH(ゼロエネルギーハウス)推進 長期優良住宅制度 SDGsやカーボンニュートラルといった世界的潮流 これらの社会的ニーズに合致し、セルロースファイバーは「環境にやさしい自然素材断熱材」として再び注目を集めています。さらに公共施設や学校など非住宅分野でも採用例が見られるようになり、「特殊な断熱材」から「実績のある選択肢」へと進化を遂げてきました。 しかし、日本における普及はまだ限定的です。セルロースファイバーは袋入りの断熱材のように大工さんが現場でカットしてはめ込むのではなく、専門工事会社が専用マシンで吹き込む施工が基本となります。そのため、グラスウールや発泡系断熱材と比べて人件費や施工コストが高くなりやすいのが実情です。 つまり、性能面では断熱・調湿・防音・耐火など多面的に優れているものの、コストや施工体制のハードルが普及のネックとなり、日本市場におけるシェアはまだ大きくありません。ただし、環境配慮型住宅や高性能住宅を求める施主層や建築会社には着実に支持を広げており、今後ますます需要拡大が期待される断熱材です。 日本での普及要因の変遷 1980年代: 製紙リサイクルの発想から国産化を試行 1990年代: 省エネ基準の強化と自然素材住宅の潮流 2000年代: 吹込み施工の標準化・品質保証体制の整備 2010年代〜: ZEH・長期優良住宅・SDGsの追い風で採用領域が拡大 環境への配慮|なぜ“エコ断熱材”なのか セルロースファイバーは「古紙から生まれる自然素材の断熱材」です。そのため、単に「暖かい・涼しい」といった快適性にとどまらず、環境負荷を減らし、持続可能な社会づくりに貢献する建材として評価されています。ここでは、その理由を具体的に解説します。 1. 古紙リサイクルで資源循環 セルロースファイバーの最大の特徴は、原料に 未使用の新聞紙古紙 を活用している点です。日本では毎日大量の新聞が発行されますが、売れ残った新聞紙は古紙として回収されます。こうした「人の手に渡る前に余った紙」を粉砕・繊維化して断熱材に生まれ変わらせているのです。 もしこれらをそのまま焼却すればCO₂が排出され、資源も無駄になります。セルロースファイバーは、この未利用資源を住宅の断熱材として長期的に固定化することで、廃棄物削減と資源循環の両立 を実現しています。 セルロースファイバーは、これらの古紙を粉砕し繊維化して新たな断熱材へと生まれ変わらせます。つまり、廃棄されるはずの紙を「住宅の一部」として長期的に固定化できるのです。 さらに注目すべきは、製造時エネルギー消費量と製造段階でのCO₂排出量の少なさです。断熱材1㎥を製造する際のそれぞれを他の断熱材と比較してみましょう。 製造時エネルギー消費量の比較 断熱材の種類 製造時エネルギー消費量(MJ/㎥) 特徴・備考 セルロースファイバー 約 150〜200 未使用新聞古紙を粉砕・薬剤処理するのみで低エネルギー。木質系断熱材の中でも省エネ型。 インシュレーションボード 約 250〜350 木繊維を圧縮成形。エネルギーは抑えめだが乾燥・圧縮工程で一定の投入が必要。 グラスウール 約 500〜800 ガラス原料を高温(約1,400℃)で溶融。エネルギー多消費型だが大量生産で普及。 ロックウール 約 800〜1,200 玄武岩や高炉スラグを高温で溶かすため消費量はさらに大きい。耐火性には優れる。 EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム) 約 850〜1,000 ポリスチレン樹脂を発泡・成形。比較的軽量だが樹脂製造にエネルギー多消費。 XPS(押出法ポリスチレンフォーム) 約 1,000〜1,200 樹脂を溶融・押出し発泡。EPSより高性能だがエネルギー投入も大きい。 硬質ウレタンフォーム 約 2,000〜2,500 石油由来のポリオール・イソシアネートを化学合成。発泡剤使用で製造負荷が高い。 発泡ウレタン(現場発泡) 約 2,000〜2,500 現場混合発泡でも原料自体は硬質ウレタンと同等。施工時のガス放出も加わる。 ※数値は参考値(LCA文献・EPDなどによる)。メーカー・製法・密度により差異があります。 MJ(メガジュール)はエネルギーの単位。1MJ ≒ 0.278 kWh。 断熱材はつくるときにもエネルギーを使います。砂や石を高温で溶かしてつくるグラスウールやロックウール、石油を化学反応させて発泡させるウレタン系の断熱材は、製造時に大きなエネルギーを必要とします。たとえば、発泡ウレタンフォームはセルロースファイバーの 約10倍以上 のエネルギーを消費します。 一方、セルロースファイバーは新聞紙などの古紙をほぐして繊維状に加工するだけ。高温で溶かす工程や石油の化学反応を伴わないため、製造に必要なエネルギーがとても少なく済みます。 製造時のCO²排出量 断熱材の種類 製造時CO₂排出量 (kg-CO₂/㎥) 特徴 セルロースファイバー 12.5 未使用新聞紙などの古紙を主原料に粉砕・再生。低エネルギー製造で環境負荷が小さい。調湿・吸音にも優れる。 インシュレーションボード 20 木質繊維ボード系。比較的低エネルギー製造で環境負荷は小さい。 グラスウール 30 ガラス原料を高温溶融して繊維化。普及品でコストは低いが、湿気に注意。 ロックウール 35 玄武岩・高炉スラグを溶融して繊維化。耐火性に優れるが調湿性はない。 EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム) 100 ポリスチレン粒を蒸気で発泡・成形。軽量で施工しやすいが耐火性は限定的。 XPS(押出法ポリスチレンフォーム) 110 樹脂を溶融押出して連続気泡化。吸水に強めだが製造エネルギーは大きい。 発泡ウレタン(現場発泡) 175 石油由来樹脂を化学反応で発泡。気密性は高いが製造時CO₂が大きい。 硬質ウレタンフォーム 175 ボード/パネル等で使用。高断熱だが石油系で環境負荷は大きい。 ※数値は代表値(参考値)です。メーカー・規格・密度により変動します。 同じ体積の断熱材をつくる場合、セルロースファイバーはウレタンフォームの14分の1以下のCO₂排出量で済みます。 セルロースファイバーは、製造に必要なエネルギー消費量が非常に少なく、CO₂排出量も断熱材の中で最も低い水準にあります。グラスウールやロックウールは原料を高温で溶かすために多くのエネルギーを必要とし、ウレタンフォームやEPSなどの石油系断熱材は製造過程で大量のCO₂を排出します。これに対してセルロースファイバーは、新聞紙などの古紙をリサイクルして繊維化するだけというシンプルな工程でつくられるため、省エネで環境負荷が小さいのが特長です。 セルロースファイバーをつくるのは「LED電球で部屋を明るくする」ようなものです。消費電力が少なくても必要な明るさが得られます。一方でウレタンフォームをつくるのは「昔の白熱電球で照らす」ようなもの。明るさは同じでも、電力を何倍も消費してしまいます。 2. 省エネによるCO₂削減 住宅の断熱性能を高めることは、日々の暮らしの快適さを左右するだけでなく、環境負荷の低減にも直結します。特に冷暖房に使うエネルギーは家庭の消費エネルギーの中でも大きな割合を占めており、断熱材の性能を上げることは「見えないところで毎日エコ活動をしている」ことと同じ意味を持ちます。 セルロースファイバーは熱を伝えにくい性質を持つだけでなく、調湿作用によって夏は湿気を抑えて冷房効率を高め、冬は乾燥を防いで暖房効率を上げる効果もあります。つまり「単なる断熱材」ではなく、暮らしの省エネを多方面から後押しする建材なのです。 仮定のモデル住宅で試算 たとえば延べ床面積32坪(約106㎡)の一般的な2階建て住宅に、セルロースファイバーを 天井:300mm 壁:105mm 床:150mm という厚みで施工したと仮定します。この断熱改修によって、年間でおよそ500〜1,000kgのCO₂排出削減効果が期待できます。これは冷暖房に必要な灯油や電力の使用量が大幅に減るためで、金額に直せば光熱費の削減、環境面では確実なCO₂削減につながります。 スギの木に換算すると… この削減量を杉の木のCO₂吸収量に置き換えると、さらにイメージしやすくなります。林野庁のデータによると、1本のスギは1年間に約8.8〜14kgのCO₂を吸収します。つまり、 500kg削減 → スギ約36〜57本分 700kg削減 → スギ約50〜80本分 1,000kg削減 → スギ約71〜114本分 に相当するのです。 家一軒の断熱改修で「スギの小さな森を植えた」のと同じCO₂削減効果が得られる、と言えば、環境価値の大きさが直感的に伝わるのではないでしょうか。 長期的に見たインパクト この効果はもちろん住んでいる限りずっと効果が続きます。仮に年間700kgのCO₂削減が20年間続けば、合計で14トンの削減。スギに換算すれば約1,000〜1,600本分の吸収量に匹敵します。これはちょっとした山林一帯に相当する規模です。 つまり、セルロースファイバーを導入することは、単なる「快適な家づくり」にとどまらず、住宅を通して地球環境に長期的に寄与する選択でもあるのです。 カーボンニュートラル社会に向けて 国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の目標達成には、産業や交通だけでなく、家庭部門の省エネも欠かせません。セルロースファイバーのように製造時のCO₂排出が少なく、運用段階でも着実な削減効果をもたらす建材は、その実現に大きく貢献できる存在です。 3. 健康配慮:室内空気質の観点 断熱材は「暑さ寒さを防ぐもの」と思われがちですが、実は室内の空気の質(IAQ:Indoor Air Quality)や健康にも深く関係しています。私たちは一日の多くを室内で過ごしており、とくに子どもや高齢者ではその割合が高いといわれます。つまり、住まいの空気環境は健康に直結しているのです。 化学物質(VOC)のリスクを抑える 石油系の発泡プラスチック断熱材や樹脂系建材では、製造や施工時に揮発性有機化合物(VOC)が微量に放散されることがあります。代表的なものにホルムアルデヒドやトルエンがあり、「シックハウス症候群」の原因物質として知られています。一方、セルロースファイバーは木質由来の繊維を主体としており、製造過程でも有害な化学物質を添加しません。防火・防虫に使用されるホウ素系薬剤も、目薬や食器用洗剤に使われるレベルの低毒性成分で、人やペットへの影響は極めて小さいとされています。そのため、「小さな子どもや高齢者がいる家庭でも安心できる断熱材」として評価されています。 調湿機能による快適・健康空間 セルロースファイバーには、湿度を自ら調整する特長があります。繊維が呼吸するように水分を吸収・放出するため、室内の湿度を常に40〜60%の快適ゾーンに保とうとします。 湿度が高い夏場 → 余分な水分を吸収してジメジメ感を軽減 冬の乾燥時 → 蓄えた水分を放出してのどや肌の乾燥を和らげる この働きにより、カビやダニの繁殖条件(湿度60〜70%以上)を抑えることができ、アレルギーや喘息などのリスクを軽減します。 健康寿命を延ばす住まいづくり ─ 断熱と調湿で“温度差リスク”と空気の悩みを同時に軽減 断熱や気密(すき間の少なさ)、計画的な換気が整った家では、室温の安定と空気質の改善が同時に進みます。これにより、血圧や呼吸器、アレルギーなど健康リスクを下げられることがわかっています。 欧州基準:冬の「安全な室温」は18℃ 世界保健機関(WHO)は、冬季の室温を18℃以上に保つことを健康保護の観点から推奨しています。これを下回る室温では、循環器や呼吸器への負担が増し、睡眠の質も低下します。 ドイツ発・パッシブハウスに学ぶ健康住宅 ドイツの「パッシブハウス」は、年間の暖房エネルギー消費を15kWh/㎡以下に抑える厳格な基準を設けています。これにより、部屋間の温度ムラや結露が少なく、VOC(揮発性有機化合物)やPM2.5も低く抑えられることが研究で示されています。 断熱改修で「血圧」が下がるエビデンス ニュージーランドの調査では、断熱改修を行った住宅で室温が上がり、湿度やカビが減少、通院回数も減少しました。日本の調査でも、断熱改修後に朝の血圧が平均約3mmHg低下。これは集団レベルで脳卒中や心筋梗塞リスクを有意に下げる差です。 日本で深刻な「入浴事故」 冬場に特に注意したいのが「ヒートショック」です。暖かい居間から寒い脱衣所や浴室へ移動した際に急激な温度差が生じると、血圧が急上昇して心臓や脳に大きな負担をかけます。日本ではこの温度差が原因とみられる入浴中の死亡事故が毎年5,000〜6,000件も発生しており、高断熱化によって家全体の温度差を小さく保つことが、こうした事故を構造的に防ぐ最も効果的な対策といえます。 セルロースファイバーが“健康”に効く理由 室温の安定化:外気の影響を受けにくく、冬でも室温18℃を維持しやすい 調湿による結露・カビ抑制:吸放湿作用で快適な湿度環境を維持 空気質の安心:ホルムアルデヒドなど有害物質をほとんど含まない 実証的裏づけ:国内外の研究で血圧低下や医療利用減少の報告 断熱材はもはや「寒さを防ぐ材料」ではなく、健康と安全を支える設備です。セルロースファイバーは、断熱・調湿・空気質改善の三拍子がそろった「健康寿命を延ばす家づくり」の中心的な断熱材といえるでしょう。 施工方法と品質のポイント 吹き込み工法の基本 ▲セルロースファイバーを攪拌する機械に投入▲ ▲セルロースファイバーを送るための送風機(ブロワー)▲ ▲複数台の送風機を連結してセルロースファイバーを送る▲ 袋入りの原料を専用マシンでほぐし、送風機(ブロワー)でさらに攪拌しながらホースで壁・天井へ送り込みます。面全体に密度と均一性を確保し、熱橋(ヒートブリッジ)や隙間を最小化します。 施工方法の種類 充填工法(壁) 壁の柱と柱の間に専用の不織布を張り、その中にセルロースファイバーを高密度で吹き込み充填する方法です。シートが袋の役割を果たし、空気だけが抜けていき断熱材が隙間なく充填されるため、断熱・気密性能が安定します。新築住宅や大規模リフォームで多く採用されます。 充填工法(屋根) 屋根断熱での充填工法は、屋根の垂木(たるき)と登り梁に専用の不織布を張り、その内部へセルロースファイバーを高密度で吹き込む方法です。垂木と登り梁間の空間が断熱層となり、シートが袋の役割を果たすため、断熱材が隙間なく均一に充填されます。 垂木側に不織布を張ることで、通気層を確保できます。 これにより、冬は暖房熱を逃がさず、夏は強烈な日射熱を遮断でき、屋根からの熱の出入りを大幅に抑制します。特に夏場は小屋裏の温度上昇を抑える効果が大きく、2階の寝室やリビングの快適性が大きく向上します。 屋根充填工法は新築住宅での採用が多いですが、大規模リフォームでも天井を解体するケースで導入可能です。壁と同様に、断熱・気密性能が安定しやすい施工方法として評価されています。 充填工法(床) 床の断熱にセルロースファイバーを用いる場合は、既存の床を剥がさずに施工できるのが大きな特長です。施工手順としては、床下収納庫や点検口から作業員が床下に潜行し、大引き(おおびき)に専用の不織布を張り、その内部にセルロースファイバーを吹き込む方法が一般的です。 既存断熱材が入っている場合 → 既存の根太間に加え、大引きの厚み分を利用してセルロースファイバーを追加充填することで、断熱層を強化できます。 無断熱の場合 → 根太+大引き間を利用し、セルロースファイバーを新たに吹き込み、床全面に断熱層を形成します。 この方法は、床を解体する必要がないため、解体・復旧コストがかからず、住みながらの施工が可能です。引っ越しや大規模な工事準備をしなくても断熱改修ができるため、リフォーム現場では特にメリットが大きい工法といえます。 さらにセルロースファイバーの調湿性によって、床下の湿気を吸収・放出する働きも期待できます。従来の断熱材では結露やカビが懸念される場所でも、乾燥・多湿のバランスをとりながら床下環境を健全に保つ効果があります。 【注意点】 床下の高さが十分に必要 床下に人が潜って作業するため、床下高が35cm未満の場合は(品質面で)施工が難しいケースがあります。その場合は別の断熱方法を検討する必要があります。 シロアリ対策との併用 床下はシロアリ被害が起こりやすい場所です。断熱工事と同時にシロアリ防除を検討することで、長期的に安心できる住環境につながります。 床下環境の点検性 断熱材で床下が塞がれると内部の点検がしにくくなる場合があります。点検口や換気口を確保し、定期的なメンテナンス計画を立てておくことが重要です。 ブローイング工法(天井裏/小屋裏) 天井裏に専用の機械でセルロースファイバーを吹き込む工法です。広い空間に短時間で断熱材を行き渡らせることができ、新築住宅はもちろんですが、既存住宅の断熱改修(リフォーム工事)に特に相性が良い方法です。 湿式工法 引用:Greenfiber(グリーンファイバー社/米国) 接着剤(水+天然系の糊)を混ぜながらセルロースファイバーを壁面に直接吹き付ける工法です。乾燥すると壁にしっかりと密着するため、断熱材が下がったり隙間ができにくいという利点があります。海外では一般的に用いられていますが、日本の多湿な気候では壁内結露(壁の中に水滴が発生する現象)のリスクに注意が必要です。乾燥管理や防湿設計を誤ると、カビや構造材の腐れにつながる可能性があります。 品質を守るために大切なこと セルロースファイバーはとても優れた断熱材ですが、その性能をしっかり発揮できるかどうかは施工の丁寧さにかかっています。とくに次の3点が重要です。 決められた密度で詰めること セルロースは「ふんわり」入れるのではなく、設計どおりの密度(kg/㎥)でしっかり充填することで、断熱・防音・調湿といった効果が安定します。 配線や配管まわりにすき間をつくらないこと コンセントの裏や配管まわりは空洞ができやすい場所です。すき間があると、そこから冷気や湿気が入り込み、せっかくの断熱性能が落ちてしまいます。 気密・防湿の処理をきちんとつなげること 壁や天井に張るシート(気密・防湿層)は、家全体で途切れなく連続していることが大切です。貫通する部分(配線・ダクトなど)は専用テープなどでしっかり処理しなければ、湿気や空気が漏れてしまいます。 セルロースファイバーの性能は、施工精度が高いほど引き出されるものです。どんなに良い断熱材でも、入れ方が雑だと本来の力を発揮できません。だからこそ、経験豊富で信頼できる施工会社を選ぶことが、もっとも重要なポイントです。 他断熱材との比較(メリット/デメリット) セルロースファイバーのメリット 多機能性:断熱に加え、調湿・防音・防火・防虫といった機能を兼ね備える点は、グラスウールやウレタンフォームにはない強み。 環境配慮:古紙リサイクルを原料とするため、省資源・CO₂削減に貢献できる(石油系断熱材は原料採掘・製造時にエネルギー負荷が大きい)。 現場適応性:吹込み充填で細部まで行き渡るため、複雑な構造やリフォーム現場でも断熱欠損が起こりにくい。 内部結露に強い:繊維自体が吸放湿するため、壁内で湿気がたまってカビになるリスクが比較的低く、長期的に性能を維持しやすい。 セルロースファイバーの留意点 初期費用:グラスウールの最廉価帯と比べるとコストは高め。ウレタンフォームやロックウールと比べてもやや割高になるケースが多い。 施工品質への依存:施工者の熟練度が性能を左右する。他断熱材も同様だが、セルロースは特に施工密度や隙間処理が重要。 施工管理:乾式工法でも粉じん対策や養生が必要。ウレタンフォームのように「その場で膨らむ」タイプではないため、専門機材・人材が不可欠。 他断熱材との比較ポイント(一部抜粋) グラスウール メリット:安価で普及率が高い。流通・施工ノウハウが豊富。 デメリット:湿気に弱く、施工の隙間やズレで性能低下しやすい。 発泡ウレタンフォーム メリット:自己接着で隙間なく施工可能。高断熱性能。 デメリット:石油由来で環境負荷が高く、経年劣化で収縮・隙間発生の事例も。 ロックウール メリット:耐火性能に優れ、工業建築などでも利用される。 デメリット:調湿性が乏しく、防音・環境面ではセルロースに劣る。 活用事例(新築/リフォーム/公共) 新築住宅での活用 セルロースファイバーは、近年の新築住宅で重要視されている高断熱・高気密仕様と相性が非常に良い断熱材です。壁・天井・床をトータルで施工することで、住宅全体の外皮性能(※建物の屋根・壁・床・窓など外気に接する部分の断熱性能)が底上げされます。 夏:外気の熱を室内に伝えにくくし、冷房負荷を抑える 冬:暖房の熱を逃がしにくくし、足元から天井まで温度を均一化 通年:調湿作用により、結露やカビのリスクを減らす 特に近年は、ZEH(ゼロエネルギーハウス)や長期優良住宅の認定を目指す建築主が増えており、省エネ基準の適合だけでなく「体感の快適性」を重視する傾向が強まっています。セルロースファイバーは断熱・調湿・防音といった多機能性を持つため、住宅性能と居住性の両立を実現しやすく、新築市場での採用が拡大しています。 リフォーム・リノベーションでの活用 築20〜30年を超える住宅では「冬は寒い・夏は暑い」という不満が多く聞かれます。セルロースファイバーは、そうした既存住宅の性能改善にも適した断熱材です。 天井裏や床下からのブローイング工法により、室内に大きな手を入れなくても施工可能 居住しながらの改修にも比較的対応しやすいため、仮住まいを準備しなくても工事できる場合が多い 断熱性能が改善することで、冷暖房費の削減や結露・カビの軽減など、住み心地を大きく改善 また、リフォーム時には「壁を壊さず断熱を強化したい」というニーズもあります。セルロースファイバーは隙間なく充填できる特性があるため、従来の断熱材では難しかった細かい部分にも断熱が行き渡り、築年数の経った住宅の性能向上に大きく貢献します。 公共施設・教育施設での活用 近年は、住宅分野だけでなく学校・保育園・図書館・オフィス・公共ホールなどの非住宅分野でもセルロースファイバーの採用が増えています。背景には以下の理由があります。 環境配慮:古紙リサイクル材を使うことで、自治体や企業の「SDGs」「カーボンニュートラル」方針に合致 音環境の改善:吸音性が高く、教室やホールの反響音を抑え、集中しやすく快適な学習・作業空間をつくる ランニングコスト削減:断熱性能が高まることで、冷暖房の使用を抑えられ、光熱費や運用コストの平準化につながる 例えば、図書館や学校では「静かで落ち着いた環境」が求められます。セルロースファイバーは断熱材でありながら防音材としての役割も果たすため、省エネ+快適な空気環境+音環境改善を同時に実現できる点が評価され、採用が広がっています。 セルロースファイバーは、 新築では「高性能住宅」を目指す人に リフォームでは「今の家を快適に改善したい人」に 公共・教育施設では「環境・快適性・コスト」を同時に重視する場面に それぞれ価値を発揮できる断熱材です。用途を問わず「断熱+調湿+防音+環境配慮」という多機能性が生きるため、今後さらに幅広い分野での活用が見込まれます。 この断熱材が向いている人・住宅 セルロースファイバーは、単に「家を暖かくする」ためだけの断熱材ではありません。自然素材ならではの調湿性や防音性、環境性能まで備えているため、次のような方や住宅に特に向いています。 1. 自然素材・健康素材に価値を置く人 セルロースファイバーの原料は、新聞紙などの古紙をリサイクルした木質繊維。化学物質をできるだけ使わずに加工されているため、**ホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物:シックハウスの原因となる物質)**の心配が少なく、小さなお子様や高齢者のいる家庭でも安心です。 「家族の健康を第一に考えたい」「自然素材の家に憧れる」という方には、まさに理想的な断熱材です。壁・天井・床に使うことで、室内空気の清浄さと快適さを高いレベルで両立できます。 2. 夏涼しく冬暖かい体感を重視する人 一般的な断熱材は「熱を遮る」ことに特化していますが、セルロースファイバーはそこに調湿作用が加わります。 夏は湿気を吸ってムワッとした暑さを和らげ、エアコンの効きをよくする 冬は乾燥時に水分を放出し、体感温度を下げにくくする つまり、同じ室温でも「涼しく感じる/暖かく感じる」という体感の差が出やすいのです。冷暖房費の削減だけでなく、「夏でも寝苦しくない」「冬でも足元が冷えにくい」といった暮らしの質の向上につながります。 3. 騒音が気になる住宅(道路・鉄道沿線など) セルロースファイバーは、繊維が音を吸収する性質を持っています。壁や天井に施工することで、外からの騒音や室内の反響を大幅に和らげます。 幹線道路や鉄道沿線にある住宅 近隣の生活音が気になる集合住宅 子ども部屋や寝室を静かに保ちたい住まい こうした環境では特に効果を実感しやすく、「断熱+防音」を同時に実現できる点が魅力です。 4. 環境負荷を下げたい人、ZEHや省エネ改修を考えている人 セルロースファイバーは古紙リサイクル材を利用しているため、製造時のCO₂排出が少なく、他の断熱材(特に石油系断熱材)と比べて環境負荷が低いのが特長です。 また、施工後は冷暖房に使うエネルギーを抑えられるため、省エネ・カーボンニュートラルを実現する建材としても注目されています。 新築で**ZEH(ゼロエネルギーハウス)**を目指す方 補助金を利用して省エネリフォームに取り組む方 環境意識が高く「次世代に負担を残さない家づくり」をしたい方 こうした方々に、セルロースファイバーはぴったりの断熱材です。 日本でセルロースファイバーを製造・供給している主な企業一覧 ※下記はWEBで掲載が確認できる情報です。ブランド・製造体制・取扱い状況は変更される場合があります。導入時は最新情報をご確認ください。 社名 拠点/所在地 商品名 王子製袋株式会社 東京都ほか ダンパック 株式会社デコス 山口県ほか デコスファイバー 有限会社 I.P.P. 愛知県 インサイドPC 日本製紙木材株式会社 東京都 スーパージェットファイバー エコトピア飯田株式会社 長野県 エコファイバー なぜ今セルロースファイバーが選ばれているのか セルロースファイバーは、単なる断熱材のひとつではありません。「快適性」「健康性」「環境性」の3つを同時に満たす、いまの時代に合った断熱材として評価が高まっています。 1. 多機能で暮らしを守る性能 セルロースファイバーは、断熱性能に加えて、調湿・防音・防火・防虫といった複数の機能を一体で備えています。 夏は湿気を吸ってジメジメ感を抑え、冬は水分を放出して乾燥を和らげる「調湿機能」 外の騒音や室内の響きを吸収し、静かな住空間をつくる「防音性」 難燃処理により火に強く、ホウ素系薬剤でシロアリや害虫も寄せ付けにくい「安全性」 これらが組み合わさることで、単なる「断熱材」以上の価値を住まいにもたらします。 2. 環境性|資源循環と省エネに貢献 原料は新聞紙などの古紙。廃棄されるはずの資源を活用し、リサイクルを通じて循環型社会に寄与しています。さらに製造時のエネルギー消費は発泡プラスチック系断熱材より少なく、CO₂排出量が大幅に低いことも特徴です。施工後も冷暖房の効率を高め、住宅1棟あたり年間数百kg〜1t規模のCO₂削減に直結します。つまり、建てた後も毎年「環境貢献」が積み重なっていくのです。 3. 海外の実績と日本での成熟 1930年代にアメリカで誕生し、1970年代のオイルショックを契機に普及。ドイツをはじめとする欧州では、パッシブハウス運動の広がりとともに「環境断熱材」として地位を確立しました。日本でも1980年代以降に導入が進み、製紙会社や建材メーカーによる国産化、2000年代の施工品質の標準化を経て、今では安心して採用できる体制が整っています。 4. 住宅政策・社会的潮流との合致 近年の住宅政策や社会的なキーワードは、セルロースファイバーと相性抜群です。 ZEH(ゼロエネルギーハウス)推進 長期優良住宅制度 SDGs・カーボンニュートラル 「地球環境にやさしい住宅を建てたい」というニーズに応える素材として、セルロースファイバーの注目度は年々高まっています。 セルロースファイバーは、断熱性だけでなく調湿・防音・防火・防虫といった多機能を備え、さらに古紙リサイクルによって環境にもやさしい断熱材です。アメリカやヨーロッパで培われた実績、日本での国産化と施工品質の確立を経て、今ではZEHや省エネ改修、長期優良住宅といった次世代住宅づくりに欠かせない存在になりつつあります。 「夏は涼しく、冬は暖かく過ごしたい」「健康に配慮した素材を使いたい」「環境にもやさしい住まいを建てたい」そんな想いに応えられるのがセルロースファイバーです。 当社では、王子製袋の ダンパック を使用した断熱工事を、新築住宅からリフォームまで幅広く手がけています。ハウスメーカーやビルダー様からのご相談はもちろん、これから家を建てたい方や断熱リフォームを検討中の一般の方からのお問い合わせも歓迎しています。 住まいの快適性と環境配慮を両立させる断熱工事にご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
目次 Toggle セルロースファイバーとは?紙から生まれた自然由来の断熱材断熱材の中での位置づけセルロースファイバーの7つの性能1. 断熱性(Thermal Insulation)2. 調湿性(Moisture Control)3. 耐火性(Fire Resistance)4. 吸音性(Sound Absorption)5. 撥水性(Water Repellency)6. 防カビ性(Mold Resistance)7. 防虫性(Insect Resistance)歴史から見るセルロースファイバーアメリカでの誕生(1930年代)オイルショックで再注目(1970年代)ヨーロッパでの本格普及(1980〜1990年代)日本での導入と発展(1980年代〜)日本での普及要因の変遷環境への配慮|なぜ“エコ断熱材”なのか1. 古紙リサイクルで資源循環2. 省エネによるCO₂削減3. 健康配慮:室内空気質の観点健康寿命を延ばす住まいづくり ─ 断熱と調湿で“温度差リスク”と空気の悩みを同時に軽減施工方法と品質のポイント吹き込み工法の基本施工方法の種類品質を守るために大切なこと他断熱材との比較(メリット/デメリット)他断熱材との比較ポイント(一部抜粋)活用事例(新築/リフォーム/公共)新築住宅での活用リフォーム・リノベーションでの活用公共施設・教育施設での活用この断熱材が向いている人・住宅日本でセルロースファイバーを製造・供給している主な企業一覧なぜ今セルロースファイバーが選ばれているのか1. 多機能で暮らしを守る性能2. 環境性|資源循環と省エネに貢献3. 海外の実績と日本での成熟4. 住宅政策・社会的潮流との合致 セルロースファイバーとは? 紙から生まれた自然由来の断熱材 セルロースファイバーは、新聞紙や段ボールなどの古紙を再利用して作られる繊維状の断熱材です。「セルロース」は木材や紙の主成分である植物繊維の名称。つまり、木を原材料とした紙を粉砕・繊維化し、住宅の壁・天井・床下へ隙間なく吹き込むことで断熱層を形成します。 断熱材の中での位置づけ ひと言で断熱材と言っても大きく4つのカテゴリーに分類できます。その中でセルロースファイバーはどこに分類されるのでしょうか? カテゴリー 原 料 代表的な断熱材 特 徴 繊維系断熱材 グラスウール ロックウール ガラス(リサイクルガラス、石英砂) 鉱物(玄武岩・高炉スラグ) 繊維の隙間に空気を閉じ込めて断熱。安価で普及率が高いが、湿気や施工精度により性能低下のリスクがある。 発泡プラスチック系断熱材 EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム)、 XPS(押出法ポリスチレンフォーム)、 硬質ウレタンフォーム、フェノールフォーム 石油化学由来の樹脂(ポリスチレン、ポリウレタン、フェノール樹脂など) 発泡させた板状やスプレータイプ。高断熱・軽量だが、環境負荷や耐火性に課題。 自然素材系断熱材 セルロースファイバー ウッドファイバー 羊毛 古紙(セルロースファイバー) 木材チップ・繊維(ウッドファイバー) 羊毛 自然由来で環境負荷が低い。調湿性や健康面のメリット大。ただしコストや供給体制に課題がある。 特殊系断熱材 真空断熱材(VIP) エアロゲル断熱材 真空パネル(ガラス繊維芯材+多層フィルム) シリカ系ナノ多孔質(エアロゲル) 最高水準の断熱性能。省スペースでも有効。ただし高価で施工条件も限定的。冷蔵庫・特殊建築などで利用が多い。 数ある断熱材の中でもセルロースファイバーは、単に「熱を遮る」だけでなく、湿気を吸ったり放出したりする調湿性、音を吸収する吸音性、火や虫への強さなど、多機能を備えているのが大きな特徴です。環境へのやさしさと住み心地の良さを両立できる断熱材として、近年改めて注目されています。 それではセルロースファイバーの特徴について見ていきましょう。 セルロースファイバーの7つの性能 1. 断熱性(Thermal Insulation) セルロースファイバーの熱伝導率は約0.040W/m・Kで、グラスウールやロックウールと同等の水準です。つまり、カタログ上の「断熱性能の数値」だけで見れば、他の一般的な断熱材と大差はありません。 しかし、セルロースファイバーが注目されるのは「数字以上の実力」にあります。吹き込み充填によって隙間ができにくく、施工精度の影響を受けにくいため、実際の住宅での性能が安定しやすいのです。さらに繊維の中に空気をたっぷり抱え込むことで、冬は室内の暖かさを逃がさず、夏は外からの熱を遮り、快適な環境を保ちます。 加えて、セルロースファイバーは蓄熱性能が大きい点も特長です。熱をため込み、時間をかけてゆっくり放出する性質を持つため、外気温の変化が室内に伝わりにくくなります。夏の昼間に外の熱気を吸収し、夜になってから放出するため、日中の暑さをやわらげて夜の寝苦しさを抑える効果が期待できます。これは「数値としての断熱性能」には表れにくい、体感温度や暮らしの快適さに直結するポイントです。 【用語解説】 熱伝導率(ねつでんどうりつ):熱の伝わりやすさを表す指標。数値が小さいほど断熱性能が高い。 蓄熱性能(ちくねつせいのう):建材や断熱材がどれだけ熱をため込み、ゆっくりと放出できるかを表す性質のことです。 2. 調湿性(Moisture Control) セルロース繊維は湿気を吸収・放出する性質を持っています。湿度が高いときは余分な水分を吸い、乾燥時には放出。この「呼吸する断熱材」の働きによって、 結露やカビの発生を防ぐ 夏のジメジメ感をやわらげる 冬の乾燥を緩和する といった効果が期待できます。 3. 耐火性(Fire Resistance) ▲表面が炭化するだけで中まで燃えません▲ 「紙の断熱材は燃えやすいのでは?」と心配されがちですが、セルロースファイバーは燃え広がりにくい素材です。ホウ素系薬品(ホウ酸塩)による難燃処理が施されており、火が当たっても表面が炭化層を形成して延焼を防ぎます。耐火試験でも外壁防火構造認定を取得しています。(外壁材・構造用面材・下地材・断熱材・内装材の仕様によって認定内容は異なります) 4. 吸音性(Sound Absorption) 繊維自体の空気胞により、入射した音エネルギーを熱エネルギーに置換する作用があります。それに加えて、繊維同士が絡み合うことにより厚い空気の層を保持しています。この二重の空気層がダブル効果で音を吸収します。 外からの騒音(車の走行音や人の声)を軽減 室内の音(テレビや足音)が外に漏れにくいなど、快適な住環境に貢献します。 5. 撥水性(Water Repellency) セルロースファイバーはホウ素系薬品で処理されているため、一定の撥水性を持ちます。そのため雨漏りがあった場合でも、断熱材がすぐに水を大量に吸い込むのではなく、早い段階で水が表面に現れるため、雨漏りの早期発見につながりやすいといわれています。ただし、長期間放置すれば建材にダメージが及ぶ可能性があるため、雨漏りが見つかった際は速やかな修繕が必要です。 6. 防カビ性(Mold Resistance) セルロースファイバーは、ホウ素系薬品の効果と優れた調湿性能の両方によって、防カビ性を発揮します。湿気をコントロールし、カビが好む環境を作りにくいため、室内環境を清潔に保ちます。 7. 防虫性(Insect Resistance) セルロースファイバーには、ホウ素系薬品(ホウ酸塩)が添加されており、これが防虫効果を発揮します。シロアリ・ゴキブリ・ダニなどの害虫を寄せ付けにくく、住宅を長期間守ります。ホウ酸は人やペットには低毒性で、目薬や洗眼液などにも利用される成分のため、安全性も高いとされています。 歴史から見るセルロースファイバー アメリカでの誕生(1930年代) セルロースファイバーが生まれたのは、1930年代のアメリカです。世界恐慌の影響で経済は冷え込み、住宅建設の分野でも「できるだけ安価で、かつ住みやすい家をつくる方法」が模索されていました。 当時、大量に流通していたのが新聞紙です。毎日膨大な量が発行され、すぐに不要となる新聞紙を廃棄せず資源として使えないかという発想が芽生えました。その答えのひとつが「断熱材への転用」でした。 新聞紙を細かく粉砕し、繊維状にしたものを住宅の壁に吹き込む、これがセルロースファイバーの原型です。紙は木材からできているため、繊維自体が熱を伝えにくい性質を持ちます。繊維の間に空気を抱え込むことで、簡易的ながらも断熱効果を発揮しました。 ただし、当時はまだ防火処理や施工技術が未熟で、「燃えやすいのではないか」「施工ごとに性能差が出る」といった不安が拭えませんでした。結果として、1930年代のセルロースファイバーは「実験的に使われたものの、大規模普及には至らなかった断熱材」として歴史に名を残します。 オイルショックで再注目(1970年代) セルロースファイバーが再び脚光を浴びたのは、1973年の第一次オイルショックです。原油価格が急騰し、世界中でエネルギー危機が深刻化。アメリカでも「いかに石油への依存を減らすか」が国家的な課題となりました。 ここで「住宅の断熱性能を高めて冷暖房エネルギーを減らす」ことが重要視され、再びセルロースファイバーが注目されます。その背景には、いくつかの技術的進歩がありました。 難燃処理の確立:ホウ素系薬品(ホウ酸塩)による難燃処理が広がり、紙でできた断熱材でも燃え広がりにくいことが証明された。 吹込み機械の改良:セルロースファイバーを均一に施工するブローイングマシンが普及し、品質のバラつきを抑えられるようになる。 環境意識の高まり:廃棄物削減やリサイクル活用の流れが社会的に広がり、古紙を再利用するセルロースファイバーは時代のニーズに合致した。 この時期から、北米の住宅市場ではセルロースファイバーが「グラスウールに代わる断熱材」として本格的に広がっていきます。特に寒冷地では「調湿性や防音性に優れる」点が高く評価され、採用が進みました。 この頃から、アメリカではセルロースファイバーを専業とする企業が数多く誕生します。 <代表的な米国の企業> Greenfiber(グリーンファイバー):現在アメリカ最大規模のセルロースファイバー断熱材メーカー。家庭向けDIY製品としてホームセンターでも販売。 Applegate Insulation(アップルゲート):老舗の断熱材メーカーで、セルロースファイバーを主力商品とし、住宅・商業施設に供給。日本でも展開している。 Nu-Wool Company(ニュールール):1897年創業の歴史あるメーカー。米国北部を中心に供給ネットワークを展開。 これらの企業は難燃処理や専用ブローイングマシンを開発・普及させ、セルロースファイバーをアメリカ住宅市場に根づかせました。 ヨーロッパでの本格普及(1980〜1990年代) ヨーロッパにおけるセルロースファイバーの普及は、アメリカ以上に力強いものでした。背景にあるのは、厳しい省エネ基準と気候条件です。 ドイツや北欧諸国は寒冷地が多く、冬の暖房にかかるエネルギーは膨大です。1970年代のオイルショックを機に、省エネを国策レベルで推進する動きが強まり、住宅の断熱性能が徹底的に問われるようになりました。 1980年代以降、セルロースファイバーは「環境にやさしい断熱材」として広く採用され、1990年代にはパッシブハウス運動の流れとともに普及が加速します。パッシブハウスとは、暖房や冷房などの設備に頼らず、建物の断熱・気密性能を最大限に高めて自然エネルギーを活用する住宅のことです。 この理念にもっとも合致する断熱材のひとつが、リサイクル資源から作られるセルロースファイバーでした。結果として、ヨーロッパでは「自然素材・環境配慮の家=セルロースファイバー」というイメージが定着していきました。 <代表的な欧州の企業> ISOCELL(アイソセル/オーストリア):ヨーロッパを代表するセルロースファイバー断熱材メーカー。吹込み工法を標準化し、施工品質の安定化に大きく貢献。 Climatizer Plus(カナダ発→欧州展開):欧州でも採用されるブランドで、環境性能を強調。 Ekopanely / Thermofloc(チェコ/オーストリア):木質繊維やセルロースファイバーを組み合わせた断熱建材を展開。 Cafco Cellulose(ドイツ):ドイツのエコ建材市場で存在感を放つ。 ヨーロッパでは、住宅だけでなく学校や公共施設にも積極的に採用され、「自然素材の家づくり」や「環境認証建築(LEED、Passive House)」で標準的な選択肢のひとつとなっています。 日本での導入と発展(1980年代〜) 導入期(1980年代) 日本にセルロースファイバーが紹介されたのは1980年代。当時は断熱といえばグラスウールがほぼ独占状態であり、セルロースファイバーは「珍しい新素材」として扱われました。製紙会社や建材メーカーが古紙リサイクルの一環として国産化を試み、「紙から断熱材をつくる」という新しい発想を住宅市場に提案しました。 認知拡大期(1990年代) 1990年代に入ると、省エネ基準の強化や自然素材住宅のブームを背景に、セルロースファイバーが徐々に注目されます。阪神淡路大震災後には住宅の品質基準が見直され、耐震と並んで断熱・気密の重要性が意識されるようになりました。この流れの中で「自然素材を使いたい」「環境に配慮した家を建てたい」という施主層が拡大し、セルロースファイバーが少しずつ支持を得はじめます。 品質確立期(2000年代) 2000年代に入ると、セルロースファイバーの施工技術は大きく進歩しました。アメリカで普及していたブローイング工法が日本向けに改良され、施工密度の基準や品質を保証する仕組みが整備されます。これにより、「セルロースファイバーは職人の腕で仕上がりが変わるのでは?」という不安が軽減され、工務店やハウスメーカーも安心して採用できる環境が整いました。 ただし、セルロースファイバーは袋詰めの製品をそのまま貼り付ける断熱材とは異なり、現場で繊維を吹き込む施工法の断熱材です。そのため、どんなに製品自体の性能や品質が安定していても、最終的な仕上がりは施工者の経験や技術に左右される側面が残ります。吹き込み密度が不足すれば断熱性能は低下し、逆に詰め込みすぎれば壁の変形や沈下を招く恐れもあります。 この課題に対応するため、一部のメーカーは施工研修や認定制度を導入し、「施工品質をシステムとして担保する仕組み」を築き上げました。つまり、2000年代は「製品性能の安定」と「施工品質の標準化」が進んだ時代であり、セルロースファイバーが本格的に普及するための基盤が整った重要な時期といえます。 普及拡大期(2010年代〜現在) 2010年代以降、国の住宅政策がセルロースファイバーの追い風となりました。 ZEH(ゼロエネルギーハウス)推進 長期優良住宅制度 SDGsやカーボンニュートラルといった世界的潮流 これらの社会的ニーズに合致し、セルロースファイバーは「環境にやさしい自然素材断熱材」として再び注目を集めています。さらに公共施設や学校など非住宅分野でも採用例が見られるようになり、「特殊な断熱材」から「実績のある選択肢」へと進化を遂げてきました。 しかし、日本における普及はまだ限定的です。セルロースファイバーは袋入りの断熱材のように大工さんが現場でカットしてはめ込むのではなく、専門工事会社が専用マシンで吹き込む施工が基本となります。そのため、グラスウールや発泡系断熱材と比べて人件費や施工コストが高くなりやすいのが実情です。 つまり、性能面では断熱・調湿・防音・耐火など多面的に優れているものの、コストや施工体制のハードルが普及のネックとなり、日本市場におけるシェアはまだ大きくありません。ただし、環境配慮型住宅や高性能住宅を求める施主層や建築会社には着実に支持を広げており、今後ますます需要拡大が期待される断熱材です。 日本での普及要因の変遷 1980年代: 製紙リサイクルの発想から国産化を試行 1990年代: 省エネ基準の強化と自然素材住宅の潮流 2000年代: 吹込み施工の標準化・品質保証体制の整備 2010年代〜: ZEH・長期優良住宅・SDGsの追い風で採用領域が拡大 環境への配慮|なぜ“エコ断熱材”なのか セルロースファイバーは「古紙から生まれる自然素材の断熱材」です。そのため、単に「暖かい・涼しい」といった快適性にとどまらず、環境負荷を減らし、持続可能な社会づくりに貢献する建材として評価されています。ここでは、その理由を具体的に解説します。 1. 古紙リサイクルで資源循環 セルロースファイバーの最大の特徴は、原料に 未使用の新聞紙古紙 を活用している点です。日本では毎日大量の新聞が発行されますが、売れ残った新聞紙は古紙として回収されます。こうした「人の手に渡る前に余った紙」を粉砕・繊維化して断熱材に生まれ変わらせているのです。 もしこれらをそのまま焼却すればCO₂が排出され、資源も無駄になります。セルロースファイバーは、この未利用資源を住宅の断熱材として長期的に固定化することで、廃棄物削減と資源循環の両立 を実現しています。 セルロースファイバーは、これらの古紙を粉砕し繊維化して新たな断熱材へと生まれ変わらせます。つまり、廃棄されるはずの紙を「住宅の一部」として長期的に固定化できるのです。 さらに注目すべきは、製造時エネルギー消費量と製造段階でのCO₂排出量の少なさです。断熱材1㎥を製造する際のそれぞれを他の断熱材と比較してみましょう。 製造時エネルギー消費量の比較 断熱材の種類 製造時エネルギー消費量(MJ/㎥) 特徴・備考 セルロースファイバー 約 150〜200 未使用新聞古紙を粉砕・薬剤処理するのみで低エネルギー。木質系断熱材の中でも省エネ型。 インシュレーションボード 約 250〜350 木繊維を圧縮成形。エネルギーは抑えめだが乾燥・圧縮工程で一定の投入が必要。 グラスウール 約 500〜800 ガラス原料を高温(約1,400℃)で溶融。エネルギー多消費型だが大量生産で普及。 ロックウール 約 800〜1,200 玄武岩や高炉スラグを高温で溶かすため消費量はさらに大きい。耐火性には優れる。 EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム) 約 850〜1,000 ポリスチレン樹脂を発泡・成形。比較的軽量だが樹脂製造にエネルギー多消費。 XPS(押出法ポリスチレンフォーム) 約 1,000〜1,200 樹脂を溶融・押出し発泡。EPSより高性能だがエネルギー投入も大きい。 硬質ウレタンフォーム 約 2,000〜2,500 石油由来のポリオール・イソシアネートを化学合成。発泡剤使用で製造負荷が高い。 発泡ウレタン(現場発泡) 約 2,000〜2,500 現場混合発泡でも原料自体は硬質ウレタンと同等。施工時のガス放出も加わる。 ※数値は参考値(LCA文献・EPDなどによる)。メーカー・製法・密度により差異があります。 MJ(メガジュール)はエネルギーの単位。1MJ ≒ 0.278 kWh。 断熱材はつくるときにもエネルギーを使います。砂や石を高温で溶かしてつくるグラスウールやロックウール、石油を化学反応させて発泡させるウレタン系の断熱材は、製造時に大きなエネルギーを必要とします。たとえば、発泡ウレタンフォームはセルロースファイバーの 約10倍以上 のエネルギーを消費します。 一方、セルロースファイバーは新聞紙などの古紙をほぐして繊維状に加工するだけ。高温で溶かす工程や石油の化学反応を伴わないため、製造に必要なエネルギーがとても少なく済みます。 製造時のCO²排出量 断熱材の種類 製造時CO₂排出量 (kg-CO₂/㎥) 特徴 セルロースファイバー 12.5 未使用新聞紙などの古紙を主原料に粉砕・再生。低エネルギー製造で環境負荷が小さい。調湿・吸音にも優れる。 インシュレーションボード 20 木質繊維ボード系。比較的低エネルギー製造で環境負荷は小さい。 グラスウール 30 ガラス原料を高温溶融して繊維化。普及品でコストは低いが、湿気に注意。 ロックウール 35 玄武岩・高炉スラグを溶融して繊維化。耐火性に優れるが調湿性はない。 EPS(ビーズ法ポリスチレンフォーム) 100 ポリスチレン粒を蒸気で発泡・成形。軽量で施工しやすいが耐火性は限定的。 XPS(押出法ポリスチレンフォーム) 110 樹脂を溶融押出して連続気泡化。吸水に強めだが製造エネルギーは大きい。 発泡ウレタン(現場発泡) 175 石油由来樹脂を化学反応で発泡。気密性は高いが製造時CO₂が大きい。 硬質ウレタンフォーム 175 ボード/パネル等で使用。高断熱だが石油系で環境負荷は大きい。 ※数値は代表値(参考値)です。メーカー・規格・密度により変動します。 同じ体積の断熱材をつくる場合、セルロースファイバーはウレタンフォームの14分の1以下のCO₂排出量で済みます。 セルロースファイバーは、製造に必要なエネルギー消費量が非常に少なく、CO₂排出量も断熱材の中で最も低い水準にあります。グラスウールやロックウールは原料を高温で溶かすために多くのエネルギーを必要とし、ウレタンフォームやEPSなどの石油系断熱材は製造過程で大量のCO₂を排出します。これに対してセルロースファイバーは、新聞紙などの古紙をリサイクルして繊維化するだけというシンプルな工程でつくられるため、省エネで環境負荷が小さいのが特長です。 セルロースファイバーをつくるのは「LED電球で部屋を明るくする」ようなものです。消費電力が少なくても必要な明るさが得られます。一方でウレタンフォームをつくるのは「昔の白熱電球で照らす」ようなもの。明るさは同じでも、電力を何倍も消費してしまいます。 2. 省エネによるCO₂削減 住宅の断熱性能を高めることは、日々の暮らしの快適さを左右するだけでなく、環境負荷の低減にも直結します。特に冷暖房に使うエネルギーは家庭の消費エネルギーの中でも大きな割合を占めており、断熱材の性能を上げることは「見えないところで毎日エコ活動をしている」ことと同じ意味を持ちます。 セルロースファイバーは熱を伝えにくい性質を持つだけでなく、調湿作用によって夏は湿気を抑えて冷房効率を高め、冬は乾燥を防いで暖房効率を上げる効果もあります。つまり「単なる断熱材」ではなく、暮らしの省エネを多方面から後押しする建材なのです。 仮定のモデル住宅で試算 たとえば延べ床面積32坪(約106㎡)の一般的な2階建て住宅に、セルロースファイバーを 天井:300mm 壁:105mm 床:150mm という厚みで施工したと仮定します。この断熱改修によって、年間でおよそ500〜1,000kgのCO₂排出削減効果が期待できます。これは冷暖房に必要な灯油や電力の使用量が大幅に減るためで、金額に直せば光熱費の削減、環境面では確実なCO₂削減につながります。 スギの木に換算すると… この削減量を杉の木のCO₂吸収量に置き換えると、さらにイメージしやすくなります。林野庁のデータによると、1本のスギは1年間に約8.8〜14kgのCO₂を吸収します。つまり、 500kg削減 → スギ約36〜57本分 700kg削減 → スギ約50〜80本分 1,000kg削減 → スギ約71〜114本分 に相当するのです。 家一軒の断熱改修で「スギの小さな森を植えた」のと同じCO₂削減効果が得られる、と言えば、環境価値の大きさが直感的に伝わるのではないでしょうか。 長期的に見たインパクト この効果はもちろん住んでいる限りずっと効果が続きます。仮に年間700kgのCO₂削減が20年間続けば、合計で14トンの削減。スギに換算すれば約1,000〜1,600本分の吸収量に匹敵します。これはちょっとした山林一帯に相当する規模です。 つまり、セルロースファイバーを導入することは、単なる「快適な家づくり」にとどまらず、住宅を通して地球環境に長期的に寄与する選択でもあるのです。 カーボンニュートラル社会に向けて 国が掲げる「2050年カーボンニュートラル」の目標達成には、産業や交通だけでなく、家庭部門の省エネも欠かせません。セルロースファイバーのように製造時のCO₂排出が少なく、運用段階でも着実な削減効果をもたらす建材は、その実現に大きく貢献できる存在です。 3. 健康配慮:室内空気質の観点 断熱材は「暑さ寒さを防ぐもの」と思われがちですが、実は室内の空気の質(IAQ:Indoor Air Quality)や健康にも深く関係しています。私たちは一日の多くを室内で過ごしており、とくに子どもや高齢者ではその割合が高いといわれます。つまり、住まいの空気環境は健康に直結しているのです。 化学物質(VOC)のリスクを抑える 石油系の発泡プラスチック断熱材や樹脂系建材では、製造や施工時に揮発性有機化合物(VOC)が微量に放散されることがあります。代表的なものにホルムアルデヒドやトルエンがあり、「シックハウス症候群」の原因物質として知られています。一方、セルロースファイバーは木質由来の繊維を主体としており、製造過程でも有害な化学物質を添加しません。防火・防虫に使用されるホウ素系薬剤も、目薬や食器用洗剤に使われるレベルの低毒性成分で、人やペットへの影響は極めて小さいとされています。そのため、「小さな子どもや高齢者がいる家庭でも安心できる断熱材」として評価されています。 調湿機能による快適・健康空間 セルロースファイバーには、湿度を自ら調整する特長があります。繊維が呼吸するように水分を吸収・放出するため、室内の湿度を常に40〜60%の快適ゾーンに保とうとします。 湿度が高い夏場 → 余分な水分を吸収してジメジメ感を軽減 冬の乾燥時 → 蓄えた水分を放出してのどや肌の乾燥を和らげる この働きにより、カビやダニの繁殖条件(湿度60〜70%以上)を抑えることができ、アレルギーや喘息などのリスクを軽減します。 健康寿命を延ばす住まいづくり ─ 断熱と調湿で“温度差リスク”と空気の悩みを同時に軽減 断熱や気密(すき間の少なさ)、計画的な換気が整った家では、室温の安定と空気質の改善が同時に進みます。これにより、血圧や呼吸器、アレルギーなど健康リスクを下げられることがわかっています。 欧州基準:冬の「安全な室温」は18℃ 世界保健機関(WHO)は、冬季の室温を18℃以上に保つことを健康保護の観点から推奨しています。これを下回る室温では、循環器や呼吸器への負担が増し、睡眠の質も低下します。 ドイツ発・パッシブハウスに学ぶ健康住宅 ドイツの「パッシブハウス」は、年間の暖房エネルギー消費を15kWh/㎡以下に抑える厳格な基準を設けています。これにより、部屋間の温度ムラや結露が少なく、VOC(揮発性有機化合物)やPM2.5も低く抑えられることが研究で示されています。 断熱改修で「血圧」が下がるエビデンス ニュージーランドの調査では、断熱改修を行った住宅で室温が上がり、湿度やカビが減少、通院回数も減少しました。日本の調査でも、断熱改修後に朝の血圧が平均約3mmHg低下。これは集団レベルで脳卒中や心筋梗塞リスクを有意に下げる差です。 日本で深刻な「入浴事故」 冬場に特に注意したいのが「ヒートショック」です。暖かい居間から寒い脱衣所や浴室へ移動した際に急激な温度差が生じると、血圧が急上昇して心臓や脳に大きな負担をかけます。日本ではこの温度差が原因とみられる入浴中の死亡事故が毎年5,000〜6,000件も発生しており、高断熱化によって家全体の温度差を小さく保つことが、こうした事故を構造的に防ぐ最も効果的な対策といえます。 セルロースファイバーが“健康”に効く理由 室温の安定化:外気の影響を受けにくく、冬でも室温18℃を維持しやすい 調湿による結露・カビ抑制:吸放湿作用で快適な湿度環境を維持 空気質の安心:ホルムアルデヒドなど有害物質をほとんど含まない 実証的裏づけ:国内外の研究で血圧低下や医療利用減少の報告 断熱材はもはや「寒さを防ぐ材料」ではなく、健康と安全を支える設備です。セルロースファイバーは、断熱・調湿・空気質改善の三拍子がそろった「健康寿命を延ばす家づくり」の中心的な断熱材といえるでしょう。 施工方法と品質のポイント 吹き込み工法の基本 ▲セルロースファイバーを攪拌する機械に投入▲ ▲セルロースファイバーを送るための送風機(ブロワー)▲ ▲複数台の送風機を連結してセルロースファイバーを送る▲ 袋入りの原料を専用マシンでほぐし、送風機(ブロワー)でさらに攪拌しながらホースで壁・天井へ送り込みます。面全体に密度と均一性を確保し、熱橋(ヒートブリッジ)や隙間を最小化します。 施工方法の種類 充填工法(壁) 壁の柱と柱の間に専用の不織布を張り、その中にセルロースファイバーを高密度で吹き込み充填する方法です。シートが袋の役割を果たし、空気だけが抜けていき断熱材が隙間なく充填されるため、断熱・気密性能が安定します。新築住宅や大規模リフォームで多く採用されます。 充填工法(屋根) 屋根断熱での充填工法は、屋根の垂木(たるき)と登り梁に専用の不織布を張り、その内部へセルロースファイバーを高密度で吹き込む方法です。垂木と登り梁間の空間が断熱層となり、シートが袋の役割を果たすため、断熱材が隙間なく均一に充填されます。 垂木側に不織布を張ることで、通気層を確保できます。 これにより、冬は暖房熱を逃がさず、夏は強烈な日射熱を遮断でき、屋根からの熱の出入りを大幅に抑制します。特に夏場は小屋裏の温度上昇を抑える効果が大きく、2階の寝室やリビングの快適性が大きく向上します。 屋根充填工法は新築住宅での採用が多いですが、大規模リフォームでも天井を解体するケースで導入可能です。壁と同様に、断熱・気密性能が安定しやすい施工方法として評価されています。 充填工法(床) 床の断熱にセルロースファイバーを用いる場合は、既存の床を剥がさずに施工できるのが大きな特長です。施工手順としては、床下収納庫や点検口から作業員が床下に潜行し、大引き(おおびき)に専用の不織布を張り、その内部にセルロースファイバーを吹き込む方法が一般的です。 既存断熱材が入っている場合 → 既存の根太間に加え、大引きの厚み分を利用してセルロースファイバーを追加充填することで、断熱層を強化できます。 無断熱の場合 → 根太+大引き間を利用し、セルロースファイバーを新たに吹き込み、床全面に断熱層を形成します。 この方法は、床を解体する必要がないため、解体・復旧コストがかからず、住みながらの施工が可能です。引っ越しや大規模な工事準備をしなくても断熱改修ができるため、リフォーム現場では特にメリットが大きい工法といえます。 さらにセルロースファイバーの調湿性によって、床下の湿気を吸収・放出する働きも期待できます。従来の断熱材では結露やカビが懸念される場所でも、乾燥・多湿のバランスをとりながら床下環境を健全に保つ効果があります。 【注意点】 床下の高さが十分に必要 床下に人が潜って作業するため、床下高が35cm未満の場合は(品質面で)施工が難しいケースがあります。その場合は別の断熱方法を検討する必要があります。 シロアリ対策との併用 床下はシロアリ被害が起こりやすい場所です。断熱工事と同時にシロアリ防除を検討することで、長期的に安心できる住環境につながります。 床下環境の点検性 断熱材で床下が塞がれると内部の点検がしにくくなる場合があります。点検口や換気口を確保し、定期的なメンテナンス計画を立てておくことが重要です。 ブローイング工法(天井裏/小屋裏) 天井裏に専用の機械でセルロースファイバーを吹き込む工法です。広い空間に短時間で断熱材を行き渡らせることができ、新築住宅はもちろんですが、既存住宅の断熱改修(リフォーム工事)に特に相性が良い方法です。 湿式工法 引用:Greenfiber(グリーンファイバー社/米国) 接着剤(水+天然系の糊)を混ぜながらセルロースファイバーを壁面に直接吹き付ける工法です。乾燥すると壁にしっかりと密着するため、断熱材が下がったり隙間ができにくいという利点があります。海外では一般的に用いられていますが、日本の多湿な気候では壁内結露(壁の中に水滴が発生する現象)のリスクに注意が必要です。乾燥管理や防湿設計を誤ると、カビや構造材の腐れにつながる可能性があります。 品質を守るために大切なこと セルロースファイバーはとても優れた断熱材ですが、その性能をしっかり発揮できるかどうかは施工の丁寧さにかかっています。とくに次の3点が重要です。 決められた密度で詰めること セルロースは「ふんわり」入れるのではなく、設計どおりの密度(kg/㎥)でしっかり充填することで、断熱・防音・調湿といった効果が安定します。 配線や配管まわりにすき間をつくらないこと コンセントの裏や配管まわりは空洞ができやすい場所です。すき間があると、そこから冷気や湿気が入り込み、せっかくの断熱性能が落ちてしまいます。 気密・防湿の処理をきちんとつなげること 壁や天井に張るシート(気密・防湿層)は、家全体で途切れなく連続していることが大切です。貫通する部分(配線・ダクトなど)は専用テープなどでしっかり処理しなければ、湿気や空気が漏れてしまいます。 セルロースファイバーの性能は、施工精度が高いほど引き出されるものです。どんなに良い断熱材でも、入れ方が雑だと本来の力を発揮できません。だからこそ、経験豊富で信頼できる施工会社を選ぶことが、もっとも重要なポイントです。 他断熱材との比較(メリット/デメリット) セルロースファイバーのメリット 多機能性:断熱に加え、調湿・防音・防火・防虫といった機能を兼ね備える点は、グラスウールやウレタンフォームにはない強み。 環境配慮:古紙リサイクルを原料とするため、省資源・CO₂削減に貢献できる(石油系断熱材は原料採掘・製造時にエネルギー負荷が大きい)。 現場適応性:吹込み充填で細部まで行き渡るため、複雑な構造やリフォーム現場でも断熱欠損が起こりにくい。 内部結露に強い:繊維自体が吸放湿するため、壁内で湿気がたまってカビになるリスクが比較的低く、長期的に性能を維持しやすい。 セルロースファイバーの留意点 初期費用:グラスウールの最廉価帯と比べるとコストは高め。ウレタンフォームやロックウールと比べてもやや割高になるケースが多い。 施工品質への依存:施工者の熟練度が性能を左右する。他断熱材も同様だが、セルロースは特に施工密度や隙間処理が重要。 施工管理:乾式工法でも粉じん対策や養生が必要。ウレタンフォームのように「その場で膨らむ」タイプではないため、専門機材・人材が不可欠。 他断熱材との比較ポイント(一部抜粋) グラスウール メリット:安価で普及率が高い。流通・施工ノウハウが豊富。 デメリット:湿気に弱く、施工の隙間やズレで性能低下しやすい。 発泡ウレタンフォーム メリット:自己接着で隙間なく施工可能。高断熱性能。 デメリット:石油由来で環境負荷が高く、経年劣化で収縮・隙間発生の事例も。 ロックウール メリット:耐火性能に優れ、工業建築などでも利用される。 デメリット:調湿性が乏しく、防音・環境面ではセルロースに劣る。 活用事例(新築/リフォーム/公共) 新築住宅での活用 セルロースファイバーは、近年の新築住宅で重要視されている高断熱・高気密仕様と相性が非常に良い断熱材です。壁・天井・床をトータルで施工することで、住宅全体の外皮性能(※建物の屋根・壁・床・窓など外気に接する部分の断熱性能)が底上げされます。 夏:外気の熱を室内に伝えにくくし、冷房負荷を抑える 冬:暖房の熱を逃がしにくくし、足元から天井まで温度を均一化 通年:調湿作用により、結露やカビのリスクを減らす 特に近年は、ZEH(ゼロエネルギーハウス)や長期優良住宅の認定を目指す建築主が増えており、省エネ基準の適合だけでなく「体感の快適性」を重視する傾向が強まっています。セルロースファイバーは断熱・調湿・防音といった多機能性を持つため、住宅性能と居住性の両立を実現しやすく、新築市場での採用が拡大しています。 リフォーム・リノベーションでの活用 築20〜30年を超える住宅では「冬は寒い・夏は暑い」という不満が多く聞かれます。セルロースファイバーは、そうした既存住宅の性能改善にも適した断熱材です。 天井裏や床下からのブローイング工法により、室内に大きな手を入れなくても施工可能 居住しながらの改修にも比較的対応しやすいため、仮住まいを準備しなくても工事できる場合が多い 断熱性能が改善することで、冷暖房費の削減や結露・カビの軽減など、住み心地を大きく改善 また、リフォーム時には「壁を壊さず断熱を強化したい」というニーズもあります。セルロースファイバーは隙間なく充填できる特性があるため、従来の断熱材では難しかった細かい部分にも断熱が行き渡り、築年数の経った住宅の性能向上に大きく貢献します。 公共施設・教育施設での活用 近年は、住宅分野だけでなく学校・保育園・図書館・オフィス・公共ホールなどの非住宅分野でもセルロースファイバーの採用が増えています。背景には以下の理由があります。 環境配慮:古紙リサイクル材を使うことで、自治体や企業の「SDGs」「カーボンニュートラル」方針に合致 音環境の改善:吸音性が高く、教室やホールの反響音を抑え、集中しやすく快適な学習・作業空間をつくる ランニングコスト削減:断熱性能が高まることで、冷暖房の使用を抑えられ、光熱費や運用コストの平準化につながる 例えば、図書館や学校では「静かで落ち着いた環境」が求められます。セルロースファイバーは断熱材でありながら防音材としての役割も果たすため、省エネ+快適な空気環境+音環境改善を同時に実現できる点が評価され、採用が広がっています。 セルロースファイバーは、 新築では「高性能住宅」を目指す人に リフォームでは「今の家を快適に改善したい人」に 公共・教育施設では「環境・快適性・コスト」を同時に重視する場面に それぞれ価値を発揮できる断熱材です。用途を問わず「断熱+調湿+防音+環境配慮」という多機能性が生きるため、今後さらに幅広い分野での活用が見込まれます。 この断熱材が向いている人・住宅 セルロースファイバーは、単に「家を暖かくする」ためだけの断熱材ではありません。自然素材ならではの調湿性や防音性、環境性能まで備えているため、次のような方や住宅に特に向いています。 1. 自然素材・健康素材に価値を置く人 セルロースファイバーの原料は、新聞紙などの古紙をリサイクルした木質繊維。化学物質をできるだけ使わずに加工されているため、**ホルムアルデヒドやVOC(揮発性有機化合物:シックハウスの原因となる物質)**の心配が少なく、小さなお子様や高齢者のいる家庭でも安心です。 「家族の健康を第一に考えたい」「自然素材の家に憧れる」という方には、まさに理想的な断熱材です。壁・天井・床に使うことで、室内空気の清浄さと快適さを高いレベルで両立できます。 2. 夏涼しく冬暖かい体感を重視する人 一般的な断熱材は「熱を遮る」ことに特化していますが、セルロースファイバーはそこに調湿作用が加わります。 夏は湿気を吸ってムワッとした暑さを和らげ、エアコンの効きをよくする 冬は乾燥時に水分を放出し、体感温度を下げにくくする つまり、同じ室温でも「涼しく感じる/暖かく感じる」という体感の差が出やすいのです。冷暖房費の削減だけでなく、「夏でも寝苦しくない」「冬でも足元が冷えにくい」といった暮らしの質の向上につながります。 3. 騒音が気になる住宅(道路・鉄道沿線など) セルロースファイバーは、繊維が音を吸収する性質を持っています。壁や天井に施工することで、外からの騒音や室内の反響を大幅に和らげます。 幹線道路や鉄道沿線にある住宅 近隣の生活音が気になる集合住宅 子ども部屋や寝室を静かに保ちたい住まい こうした環境では特に効果を実感しやすく、「断熱+防音」を同時に実現できる点が魅力です。 4. 環境負荷を下げたい人、ZEHや省エネ改修を考えている人 セルロースファイバーは古紙リサイクル材を利用しているため、製造時のCO₂排出が少なく、他の断熱材(特に石油系断熱材)と比べて環境負荷が低いのが特長です。 また、施工後は冷暖房に使うエネルギーを抑えられるため、省エネ・カーボンニュートラルを実現する建材としても注目されています。 新築で**ZEH(ゼロエネルギーハウス)**を目指す方 補助金を利用して省エネリフォームに取り組む方 環境意識が高く「次世代に負担を残さない家づくり」をしたい方 こうした方々に、セルロースファイバーはぴったりの断熱材です。 日本でセルロースファイバーを製造・供給している主な企業一覧 ※下記はWEBで掲載が確認できる情報です。ブランド・製造体制・取扱い状況は変更される場合があります。導入時は最新情報をご確認ください。 社名 拠点/所在地 商品名 王子製袋株式会社 東京都ほか ダンパック 株式会社デコス 山口県ほか デコスファイバー 有限会社 I.P.P. 愛知県 インサイドPC 日本製紙木材株式会社 東京都 スーパージェットファイバー エコトピア飯田株式会社 長野県 エコファイバー なぜ今セルロースファイバーが選ばれているのか セルロースファイバーは、単なる断熱材のひとつではありません。「快適性」「健康性」「環境性」の3つを同時に満たす、いまの時代に合った断熱材として評価が高まっています。 1. 多機能で暮らしを守る性能 セルロースファイバーは、断熱性能に加えて、調湿・防音・防火・防虫といった複数の機能を一体で備えています。 夏は湿気を吸ってジメジメ感を抑え、冬は水分を放出して乾燥を和らげる「調湿機能」 外の騒音や室内の響きを吸収し、静かな住空間をつくる「防音性」 難燃処理により火に強く、ホウ素系薬剤でシロアリや害虫も寄せ付けにくい「安全性」 これらが組み合わさることで、単なる「断熱材」以上の価値を住まいにもたらします。 2. 環境性|資源循環と省エネに貢献 原料は新聞紙などの古紙。廃棄されるはずの資源を活用し、リサイクルを通じて循環型社会に寄与しています。さらに製造時のエネルギー消費は発泡プラスチック系断熱材より少なく、CO₂排出量が大幅に低いことも特徴です。施工後も冷暖房の効率を高め、住宅1棟あたり年間数百kg〜1t規模のCO₂削減に直結します。つまり、建てた後も毎年「環境貢献」が積み重なっていくのです。 3. 海外の実績と日本での成熟 1930年代にアメリカで誕生し、1970年代のオイルショックを契機に普及。ドイツをはじめとする欧州では、パッシブハウス運動の広がりとともに「環境断熱材」として地位を確立しました。日本でも1980年代以降に導入が進み、製紙会社や建材メーカーによる国産化、2000年代の施工品質の標準化を経て、今では安心して採用できる体制が整っています。 4. 住宅政策・社会的潮流との合致 近年の住宅政策や社会的なキーワードは、セルロースファイバーと相性抜群です。 ZEH(ゼロエネルギーハウス)推進 長期優良住宅制度 SDGs・カーボンニュートラル 「地球環境にやさしい住宅を建てたい」というニーズに応える素材として、セルロースファイバーの注目度は年々高まっています。